広島高等裁判所松江支部 昭和25年(う)44号 判決 1950年7月31日
控訴人 被告人 堀寿英
弁護人 君野順三
検察官 赤松新次郎関与
主文
原判決を破棄する。
本件を鳥取地方裁判所に差し戻す。
理由
弁護人君野順三の控訴の趣意は別紙控訴趣意書記載の通りであつてこれに対する当裁判所の判断は次の通りである。
第二点について。
原審第二回公判調書記載によれば弁護人は同公判において起訴状記載の第二の事実(原判決認定の一の事実)についてその記載の土地建物が相当価格であり本城国蔵に対し損失を及ぼしていないことを立証するため右土地建物の価格の鑑定を、起訴状記載の第三の事実(原判決認定の二の事実)について被告人は真実材木の取引をしたのであつて吉村次郎を欺罔したものでないことを立証するため証人石谷源太郎及び同福地嘉蔵の取調を請求し、裁判官は右証人石谷源太郎を次回に喚問する旨決定を宣したこと、その後の原審第三回、第四回公判調書記載によれば第三回公判において裁判官は証人石谷源太郎を取調べたけれども弁護人請求の右鑑定及び証人福地嘉蔵の取調べについてはその採否について何等の挨拶もせずその儘弁論を終結し判決を言渡したこと。而して右証拠は鑑定及び証人訊問の結果によつては原判決認定の一及び二の事実について弁護人の右立証の趣旨が証明せられ場合によつては被告人の本件犯罪を構成しないことになるかもしれない重要な証拠であることすべて弁護人所論の通りである。原裁判所が敘上の措置に出たことは弁護人所論の通り刑事訴訟規則第百九十条第一項に違反したものであり、しかも右訴訟手続の違反は判決に影響を及ぼすことが明かであるから原判決はこの点において到底破棄を免れない。尤も原審第四回公判調書記載によれば裁判官は最後に訴訟関係人に他に立証はないかどうか問うたところ訴訟関係人は孰れも他に取調を請求する証拠はないと述べ弁護人より重ねて敍上鑑定及び証人訊問の請求をした形跡は認められないけれどもこのことがあつたからと言つて敍上訴訟手続違反の瑕疵が治癒され訴訟手続が適法性を回復するものとは解し難い。
以上の次第であるから弁護人その余の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条を適用して原判決を破棄し同法第四百条本文に従つて本件を原裁判所たる鳥取地方裁判所に差し戻す。
(裁判長判事 平井林 判事 久利馨 判事 藤間忠顕)
控訴趣意書
第二点原判決には訴訟手続の法令に違反した瑕疵がある(刑事訴訟規則第百九十条)
原審第二回公判に於て弁護人は起訴状第二事実につき起訴状記載の土地建物が相当価格(抵当債権を含めて)であり本城国蔵に対し損失を及ぼしていない事実を立証する為め右物件の価格の鑑定同第三事実につき被告人は真実材木の取引をしたのであつて吉村次郎を欺罔したものでないことを証明する為証人石谷源太郎福地嘉蔵の取調を請求したことは第二回公判調書の記載により明かである。然るに原裁判所は石谷源太郎の取調べを為したるのみで他の鑑定及び福地嘉蔵の取調請求は之を却下もせず取調べもせずして終結したるは明かに刑事訴訟規則第百九十条第一項に違反したものである。若し右鑑定及び証人調べが採用せられ其所期の結果が得られたならば被告人の犯意なきこと明かとなり判決の結果に影響を及ぼすこと明かである故に此手続を尽ささりし原判決は破棄せらるべきものである。
(その他の控訴趣意は省略する。)